憎きアンチに目に物見せる話

「クソモブが、舐め腐りやがって」  危うく出禁になるところだった。別になったところで困るわけではないが、誹謗中傷とも言える心無い数々の言葉に反論する手立てが減ってしまうのも困るので仕方なく、本当に仕方なく黙って退出してやった。  年齢的に仕方がないと言える部分もある。デクの名が一気に広がったかの大戦ももう十年も前のことになるし、あのあと生まれた子供たちのデクに対するイメージが芳しくないのも無理はない。俺がプロヒーローとしてデビューした時にはもう完全にメディアから離れ、教師になろうと奮闘していたデクのヒーロー姿はファンでさえもう二度と見られないのかも知れないと噂されていたほどだった。勿論その裏でデクの復帰を企てていた俺達は毎日必死にアーマー代と称して資金をかき集めていたし、その裏事情を知っている奴らはデクが無個性であっても信頼できる強さを持っていることくらいとっくに理解している。勿論、俺も含めて。  だからこそ、そういった噂話も聞きたくなかったし、ましてや大多数の人間が見ているメディアで心無いデクへのコメントが多々流れているのを知ってしまったものだからさすがに堪忍袋の緒が切れた。テレビの前ではなく、俺自身が出演している番組(アーマー代のために出演していたこれまでの名残で、久しぶりに再度出演依頼があった)で喋っていやがったコメンテーターがあからさまに、完全に煽りという形でデクを下げるコメントをしていたものだから、出ているのが俺でなくても恐らくキレる。俺で良かったな、轟だったら今頃半分凍らされた後にもう半分は骨になるまで燃やされてたところだぞ。 「……チッ、腹の虫が収まんねえ」  思い立って仕舞っていたスマートフォンを取り出す。ジーニストのサイドキックを経て、数年前に独立した際あった方がいいとジーパンに力ずくで作らされたSNSの公式アカウントのタイムラインを眺める。あくまでも公式なのでアカウントからのフォローはない。その代わり、色々と、それこそ文字通り本当に色々なものを監視するためのリストを作成しては情報収集がてらデクの評判やマイナーな意見などを手が空いた時に確認していた。 「アァ? ンだこれ……」  案の定、数時間前の生放送番組を見ていた視聴者のコメントがずらりとタイムラインに並ぶ。割合的には賛否両論といった感じで、年齢が若ければ若いほどコメンテーターに賛同する形でデクに対する否定的なコメントも多い。逆に、壮絶だった大戦を経験してきた年齢層からはそもそもあんな陳腐なコメントを気にしている者も少なく、ただひたすらに彼の復帰を喜び今後の活動に期待する声ばかりで思わず口角が上がる。 「……ま、知らねえもんは分からねえから仕方ないとはいえ、あのクソジジイは大戦知ってんだろうが! 目ェ腐っとンのか!」 「まあでもほら、僕もまだまだアーマーを使いこなせてないところもあるし、無個性がサポートアイテムに助けられてるだけって言われても正直反論できないよ」 「テメーにはテメーにしかねえ持ち味があんだろうが、クソがァ……! もう少し高く見積もれっつっとンだろ!」  テレビの前で散々、無個性のヒーローに掛けたアーマーの金額(推定)が高すぎるだの有個性のヒーローの教育に宛てた方が有意義だっただの、教師とプロヒーローを兼業する人間に渡すような代物ではないだの、国や公安から裏金でも貰ったんじゃないかだの、そもそも八年もブランクがあってまともにヒーロー活動なんて不可能ではないのかだの、現に活動を目にした訳でもない、そんな証拠もないくせにべらべらべらべらべらべらと飽きもせずに語るその口を何回爆破してやりたかったかなんて数知れない。 (あれは俺らが自分の意思で出した金で作ったアーマーなんだから他人にどうこう言われる筋合いもねえし、あんなクッソややこしいアーマーこいつ以外に扱えるワケねえだろ! 兼業がなんだ? センコーやりながらプロヒーローしとるやつなんかいくらでもおるし、実技指導もしとる出久は普段から体鍛えててブランクなんぞすぐ解消できるし、そもそもこの八年間無個性な上に生身で強盗やらスリやらとっ捕まえてはニュースになっとったの知らねぇンか!?)  隣りで突然ブツブツと恨み節を吐き出している俺を心配そうに眺めている出久は、今日も今日とて教師としての業務を終えたあとぶっ続けでヒーロー活動に取り組み、なんなら俺がクソ番組に渋々出演していた最中にもコイツは交通事故の後処理や人命救助に当たっていたし、その後の交通整理なんかも警察に任せりゃいいのに率先して行い、結局その日家に帰ったのは日付が変わってからとか抜かしていたのでムカついた反動で一発頭を殴ってやった。 「かっちゃん、ほんとごめんね。僕が不甲斐ないばかりに」 「ンでテメーが謝んだよ」 「だって、元はといえば僕がみんなを安心させられるような姿を見せられていれば、こんな余計なストレスをかっちゃんが抱えなくて済んだのにさ」 「……どんなにすげえヒーローでも、万人受けするヤツなんて一人もいねえんだよ。オールマイトだってそうだったろ、どんなに俺らにとっちゃ憧れだったとしても、ヴィランだったあいつらみたいに否定的なヤツだっている。俺らは神様じゃねえんだ、少なからず誰かには嫌悪を向けられる覚悟はしろ」 「それは……勿論、分かってるけど。でもだからって僕のせいで君までどうこう言われるのはどうしても納得いかないよ」  俯いてしょげている出久を横目に、なんだコイツかわいいなと思いながらも必死に出そうになった言葉を呑み込んで、はあぁあと重い溜息を吐きながらぶにゅりと頬を抓った。 「あだだだっ、な、何っ」 「あくまで言葉向けられてんのはテメーだし、そもそもクソモブに何言われたところで俺にダメージなんかねえ。それでも無下に出来ねえっつーならきちんと見せてやりゃあいいだけだ。有無を言わさねえほどに完璧な立ち回り、出来ねえとは言わせねえぞ」  言葉で分からないなら、見せつけて理解させればいい。ヒーローデクがどんな働きをしているか、デクがヒーローに復帰したという報道が初めて流れた時、どれだけたくさんの人々の喜びが世界に溢れかえっていたか。 「一人が不安なら俺も力になる。どんな手ぇ使ってでもテメーが今、ただの無個性教師じゃねえってことを証明してやるんだよクソが!」 「よ、よーし! それじゃあ僕はまず何を……」 「いつも通りでいい」 「へ?」 「アーマー渡した後に今後の動き方は決めとったろ。教師もして、ヒーローもして、でも絶対に無理はしない。どちらかが多忙であればもう片方は休業も考える。とくにヒーロー業に関しては一人で突っ走らないこと、明日もちゃんと守れよ」 「そ、それは分かってるけど。かっちゃん、さすがに言ってることめちゃくちゃすぎるんじゃ……」  困惑する出久を他所に自分は至極冷静だと表情で彼にそう訴える。普段から間違ったことは何一つしていない。教師をしている時もヒーローとしてパトロールしているときも、そして重要なアクシデントが起こった時も何一つこの男は手を抜いたことなどない。それどころか余計なところにまで手を突っ込んで仕事を増やすのが大得意ときた。自己犠牲にもほどがある。しかもそうすることによって得た人々の笑顔に更なるやり甲斐を見出す。一度だけ、そんなに早死してえのかと聞いてしまったことがあるくらいに。 「普段以上のことをしろってんじゃねえ、普段のテメーの姿を世間に見せつけりゃいいって話だ。それに関しては俺がどうにかする、だからいつも通りで良いっつった」 「い、いつも通り……分かった。僕、かっちゃんを信じるよ。君の手腕を疑ったことはないし」 「たりめーだ。俺を誰だと思ってんだよ」 「えと……大・爆・殺・神ダイナマイト。僕にとっていっちゃん強くてカッコいい神様、かな」 「ハッ、正解」 *** 「大・爆・殺・神ダイナマイト公式 @GEMDG_official デクとチームアップ (火事があったマンションに取り残された小さい子どもをベランダから救けるデクの動画)」 「大・爆・殺・神ダイナマイト公式 @GEMDG_official 俺の方が早かった (数秒の差でデクより現着が早く上機嫌の大・爆・殺・神ダイナマイトと、さすがだねと笑顔を浮かべながら瓦礫の撤去を行う中、二人のファンだと声を掛けてくれた学生と写真を撮ってあげているデクの動画)」 「大・爆・殺・神ダイナマイト公式 @GEMDG_official 近隣住民、協力感謝 (町中で無差別に暴れ回るヴィランと対峙する大・爆・殺・神ダイナマイトと、周りにいた一般市民の避難誘導を率先して行うデク、その後爆破の黒煙が煙幕となり視界が潰れる中、アーマーに搭載されたサーマルカメラ機能を使用し黒鞭ですぐさまヴィランを拘束、事態を即収束するデクの一部始終が映された動画)」 「大・爆・殺・神ダイナマイト公式 @GEMDG_official ☆メディア出演情報☆ ○○テレビ ○○時○○分〜 『ヒーローなんでもトークショー!』 再び豪華ゲストとして出演します♫ お楽しみに! バクゴーヒーロー事務所 事務員より (大・爆・殺・神ダイナマイトが青筋と中指を立てている写真)」  以上の通り、最近の大・爆・殺・神ダイナマイトのSNSはとんでもなく暴れている。炎上とかではなく、どこかの誰かに何かを強く訴えているような、そんな気迫さえも感じる。そんな違和感はファンの間でも大きな話題になっていて、月に一度呟けば多い方の大・爆・殺・神ダイナマイト公式アカウントが毎日のように呟き始めたものだから、当初は乗っ取りにでも遭ったのではないかとも言われていた。しかし、どれもこれも本人でしか投稿できない動画や出演情報が綴られており、その上各呟きには時々デクからのリプライもついていたので恐らく本物であろうという推測で落ち着いたが、依然大・爆・殺・神ダイナマイトの思惑は誰も知る由はなかった。  ただ、昨夜再びゲストとして登場したトーク番組での大・爆・殺・神ダイナマイトはいつになく活き活きしており、レギュラー出演陣が一歩後ろに引くほどのヒーローデクのこれまでとこれからの活躍に関するパワーポイントプレゼンはどちらのファンにも好評だったらしい。

(2026.05.21)

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