かわいくてかっこいい男の話

「緑谷ってさあ、その場にいるヒーローの個性の組み合わせとかで作戦の立案したり、情報のない個性のこととか即座に分析して対処したり、すげ〜頭脳派な戦い方するじゃん?」 「あーね」 「でもさ、あいつの個性自体はパワー系な上、首から下めちゃめちゃ体鍛えてんのなんかギャップすげーなっていつも思ってる」  なんて話を急に言い出したのは、寮の共有スペースで寛いでいた上鳴だった。夕食後、早々に風呂から上がり自然と今この場所に集まっているのは、切島、瀬呂、芦戸、葉隠、峰田、上鳴、そして俺、尾白である。話題の中心である緑谷は日課のランニングをするため外に出ていて不在で、今頃いい汗をかきながら夜風を受けて涼んでいる頃だろう。上鳴の口から提示された緑谷へのイメージを聞いた取り巻きはそれを聞いて納得している者も多く、よく考えてみれば自分よりも小柄で細めの体に筋肉を増やしていく日々を傍で見てきて確かにそうだなあと俺も素直に頷いた。 「緑谷、知識も豊富だし頭切れるしで明らかに頭脳派なのに、戦闘スタイル的にはバッキバキにパワーアタックだもんな。なんか温度差で風邪引くよ」 「わかるぜ! 普段優しいしちょっと遠慮しいな割にはやる時ゃやるもんな、漢らしいぜ!」 「女子的には、その性格ギャップと体格ギャップは結構堪んないよね〜〜!」 「緑谷って男の中では結構カワイイ感じの顔だから余計かな。あの首から下、実はムッキムキなの初めて見た人はドキッとしちゃうかもだよねえ」  キャッキャと楽しげに緑谷を語る葉隠と芦戸を見て思わず苦笑した。でも、よくよく考えたら彼女たちの話にも一理あって、俺や砂藤、切島あたりは元々体が資本なところもあったり、次いで爆豪や轟、障子といった筋肉のつきやすそうなタイプの人種の体は容易く想像しやすいが、緑谷や常闇のような小柄なタイプだけど実は隠れ筋肉に関しては、実際のところヒーロースーツを着替える時とかちらりと視界に入ると思わず、おおっと感嘆したことがある。 「確かに……なんか分かるかも……」 「尾白、お前……それ以上行くと爆破されるぞ」 「ち、違う違う、そういう意味じゃなくて! 純粋によくあそこまで鍛えたよなと思って!」 「まあ、元々ヒーローに対する気持ちがデカかったのもあるんだろうし、あとは多分アレだな。ワンフォーオール。緑谷、あれ受け継ぐのに中三の時めちゃめちゃ鍛えたって言ってたじゃん。生半可な体じゃ爆発四散しちまうらしかったし」  爆発四散。日常会話の中ではまず使用用途がない四字熟語である。本人曰く、当時は筋肉トレーニングの類はほとんど経験がなく、オールマイトに出会って十ヶ月間、栄養バランスのいい決まった食生活と厳しいトレーニングプランをこなしつつ、ただでさえ偏差値の高い雄英高校を受験するため勉強も欠かさず行ってきたというのだから初めて聞いた時は到底信じられなかった。しかし、彼の故郷にある多古場海浜公園の砂浜に捨てられていたゴミの山を片付けたのも実は緑谷だったという話をオールマイトから聞いてからは、じゃあ間違いないな、と思ったし、緑谷出久という人間を知り始めた今なら疑う余地はない。きっと、彼ならやる。どんなに時間が掛かったとしてもきっとやり遂げてしまうだろう。 「そういや、デートスポットになってるんだっけ」 「どこがだ?」 「多古場海浜公園」 「おっ、よく知ってんなあ尾白! オイラも一回行ったことあるけど夏場はサイコーだぜ!」 「なになに? 尾白もそういうの興味あんの? 夏みんなで行く?」 「いやいや、そういう事じゃなくて。やっぱ緑谷ってすごいなって思っただけ」  不思議そうな表情で疑問符を浮かべる峰田と上鳴に苦笑していると、噂の張本人である緑谷と、一緒にランニングをしていたらしい爆豪が二人揃って帰ってきていた。一年の時は周りが心配になるくらいぶつかり合っていた二人も、今では大戦と呼ばれるようになったあの厳しい戦いを経て、ようやく世間一般的に幼馴染という関係がしっくりくるようになるまで改善されたようだった。詳しいことは二人にしか分からないことだけれど、正直仲が悪かった頃と比べたら周りから見ても遥かに良好な関係になったと思う。 「おつかれ〜、緑谷とカッチャン!」 「カッチャン言うな」 「それにしてもどうしたの? みんな揃って」 「普通に駄弁ってただけだぜ。まあ、今ちょうど楽しい緑谷トークしてたけど」 「みど……僕!? そ、そんな話のネタになるほどの話題あったかな……」 「ところがどっこい……ほれ!」  少々嫌な予感はこの時点でしていた。多分、瀬呂あたりは止めようか止めないか悩んで、まあ面白そうだからいっかと放置を決めたのだろう(面倒くさくなったとも言う)。まさしくランニング終わりと言わんばかりの、首にタオルを巻いて半袖ジャージを着ていた緑谷にじりじりと距離を詰めた上鳴を周囲が不思議そうに眺めていた最中、突然服の裾を掴みそのまま勢い良く捲り上げたものだから即座にまず女子の黄色い声が共有スペース内に響いた。勿論、緑谷もさすがにインナーは着ていたはずだがここにきて上鳴の妙な器用さが発揮され、ジャージと共に上手いこと捲られてしまい、大多数の人間に一瞬で緑谷の鍛えられた腹筋、胸筋、ギリ両脇までお披露目されることとなった。当然、男子は脱衣所や更衣室で見慣れているので特に思うことはないが、今この場には女子がいる。そう、女子がいるのだ。 「か、上鳴くん!?」 「ちょ、ちょちょちょ、三奈ちゃん! 三奈ちゃん見た!?」 「見〜〜ま〜〜し〜〜た〜〜」 「これこそギャップ〜〜」 「ね、ちょっと緑谷、腹筋ちょっと触らせ、」  上鳴くんの、ん、が綺麗に裏返っていて堪らず吹いてしまった。芦戸と葉隠にこれでもかというくらいに色んな角度からガン見され、みるみるうちに顔が茹でダコのように真っ赤になっていく緑谷は頬に大きな傷を負いツーブロックの厳つい髪型になっても相変わらず初であどけなさが抜けていない。男子側はかわいそうにと苦笑して同情する者、女子と同じようにそうそうこれこれとじっくり眺めている者、俺だって負けてないぜと自ら脱ぎ出す切島で大賑わいである。  しかし、囲まれている緑谷の隣りで不機嫌なオーラを醸し出している人間が一人だけいた。 「おい、テメェら!! 見せモンじゃねぇンだよ、散れ!!」 「あ〜、爆豪がまた緑谷独り占めにしてる! ずるいぞ、ずるいぞ!」 「そうだそうだ! 緑谷の乳首がピンクだってことくらい周知の事実だろ!」 「そうなの!? か、勘弁してよ! というか僕ピンクじゃないし!」  上鳴に報復の爆破を顔面に食らわせたあと、すぐさま乱暴に緑谷の服を元に戻した爆豪は周囲による怒涛のクレームを跳ね除け、未だに収縮してしまっている緑谷の腰に腕を回し、ただの幼馴染にしてはどうも近すぎる距離感の二人はあれよあれよという間に人を押しのけていく。 「コイツの乳首のことは今すぐ忘れろ、いいな! 無理だっつーなら二度と思いせねぇようにそのクソ脳みそ何回でも爆破してやらぁ!」 「もう乳首のことには触れないでよ、かっちゃん……」  ついにエレベーターの中へと姿を消した二人を見送った俺達は、乳首の色がどうとか筋肉のギャップが良かったとかはさておき、あのまま爆豪の部屋へと連れて行かれたであろう緑谷の今夜の行く末がただただ心配でならなかったが、そこまで深刻な問題でもなかったので、切島の、俺達も寝るかという鶴の一声でその日は全員解散となったのだった。

(2026.04.18)

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