バクゴー所長とサイドキックデクの話

 これ以上、かっちゃんに甘えてしまうのは人としてどうなのだろうと本人に聞いてしまったことがある。たくさんの人々の知識と想い、途方もなく長い時間とお金を掛けて完成に至ったアーマーを贈ってくれたまでで留まらず、独立して立ち上げた自身の事務所に入れと声を掛けてくれる彼の優しさが僕を駄目にしてしまいそうで、その言葉を素直に受け取るのはさすがに恐ろしかった。それでも何度でも食い下がってきたかっちゃんに根負けして、あくまでも教師としての活動を主とした上での兼業であれば、と答えるとこれまで見たことのないくらいのはにかむように笑うものだから堪らず涙が溢れてしまった。 「デク先生、ヒーロー復帰おめでとー!」 「他の先生みたいに学校でヒロス着ないの?」 「てか、ダイナマのサイドキックやるってマジ?」 「噂のアーマードデク、授業中でも見せてよ〜」 「ちょ、ちょっと待っ、ストップストップ! みんな落ち着いて」  今担任を受け持っている生徒は今年の春に三年生へ進級した。旧友が作ってくれたアーマーをオールマイトから託されてから二年程が経過していて、その時まだ一年生だった洸汰くんや光輝くんも来年の春には卒業だなんて信じられないくらいに時間の経過が早く感じる。それと同時に、僕を再びヒーローにしたかったかっちゃんがどれだけの時間を掛けて、その掛けた時間の分だけ僕のことを考えてくれていたのだと思うたびに胸の奥にじんわりと熱が帯びる。ましてやあのかっちゃんが、僕のことを殴り蹴り罵声を浴びせ爆破で遠ざけていたかっちゃんが、僕を同じ土俵へと引っ張り上げるために海の底へ沈んでいた手を見つけて掴んでくれた事実が嬉しくて堪らなかった。  僕は無個性だ。無個性はヒーローにはなれない。偶然にもオールマイトに見初められて受け継いだ力を完遂できたことは誇りに思うし、僕をヒーローにしてくれたその力には心の底から感謝していた。夢を見せてくれて、それを現実にしてくれた。たとえ再び無個性に戻っても、その事実が僕自身を支えてくれていたように思う。本当はA組のみんなとヒーローになりたかった。みんなのように、みんなと肩を並べて救けて勝つ、勝って救けるヒーローになりたかった。その気持ちと相まって、無個性でも誰かの救けになれるヒーローになれたら、それはきっとカッコいいことなんだと側で見守ってくれていた相澤先生を見て思うようになって、いつしか僕にしかなれない僕にとってのヒーローになれるように必死に前を向いていたように思う。そうやって、出来ることのために一生懸命だった僕を横からタックルしてきて突然胸ぐらを掴んできて君は言うんだ。 「そんなんで隠し通せとると思っとんのか!」  ずるいよ、そんな一言でしか反論することは出来なかった。なにせオールマイトにも言われたんだ、体が勝手に動いてしまうのだろうと。僕はいつまで経っても、どれだけ考えないようにしようとも、外に出れば勝手に体が動いてしまうような自制の効かない頭になってしまっているのだと。 「ほら、席座って! もう授業は始まって……おわあ!」 「くぉらァ、出久ァ! 人手足んねえ、今すぐ来い!」 「ちょ、でも僕今から一限……」 「校長にはもう許可取っとる! ガキ共はしばらく自習しとけ!」  突然教室の扉が勢い良く音を立てて開いたかと思えば、目が顔からはみ出るほどの凄い形相で大・爆・殺・神ダイナマイトが姿を現し生徒の大歓声が上がる中、あれよあれよというままにアーマーのスーツケースを起動させられ、パキパキと独特の音としなりが僕を包んでいく感覚、目をキラキラと輝かせた生徒たちに凝視されて照れくささで堪らず苦笑してしまった。  緑色のジャンプスーツを模したアーマーを包むように、昔よりもたなびくほどの長いマントが形成されるたび、今でさえもなお夢の中に生きているようにも感じる。それでも、手を差し伸べてもう二度と離さないとでも言わんばかりにがっしりと握り締める彼のぬくもりで、僕はいつの日か夢見たヒーローに今もなれているのだとようやく実感できるのだ。 「行こう、かっちゃん!」 「大・爆・殺・神ダイナマイトォ!」 「どわ! 失礼しました、大・爆・殺・神ダイナマイト!」  背中越しに聞こえる、生徒たちの応援する声。一人一人の頑張れというみんなの声がいつだって僕をヒーローにしてくれる。 「クソヴィランが集団で分かれて暴れ回っとる! 俺らはこのまま真っ直ぐ〇〇地区ゥ、気張れやサイドキックさんよォ!」 「やるなら全力! バクゴー事務所のメンメン、頑張らせて頂きます!」  バカにしとんのか、と弾けるような火花を散らしながら雄英高校の校門の地を蹴り空へと飛び出した大・爆・殺・神ダイナマイトの背を追うように出力を上げたアーマーが僕を雲一つない水色へ押し出してくれる。風を切り、焦げるような光の匂いに手を伸ばせば、憧れていた君がすぐ隣りで僕と笑ってくれていた。何度でも何度でも、沈んだ僕の手を掴んで離さない彼は、いつまでも僕にとってのヒーローだと思い知らされているようで、きっとそれはとても幸せなことなのだと、それがなんとなく悔しくて仕方がなかった。

(2026.02.23)

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