ドン引きされる話
不法侵入には持ってこいの個性だった。登校中の生徒の影へ潜り、校門に設置されたセンサーにも引っかかることなく校内へ忍び込んだヴィランは雄英高校に恨みを持つ人物だったらしく、こっそりと弱みの証拠になる資料を盗んだあとは大事にせずそのまま同様の方法ですぐに退散するつもりだったらしい。しかし、偶然授業の一環で生徒に掛けられるはずだった相澤先生の抹消が、その生徒の影に隠れていたヴィランの個性をたまたま解除してしまい、突如としてグラウンドに姿を現したその不法侵入者はすぐさま捕縛布で捕らえようとした相澤先生を振り切るほどのスピードで校内へととんずらしてしまったものだから酷い騒ぎだった。瞬きをする前に見つけることが出来ず、抹消された個性が復活したであろうヴィランは間違いなく今、どこか影の中に潜み脱走できる隙を窺っていることは間違いない。しかし、その所在は見当が付かず、しらみ潰しにクラスのみんなでお互いや建物の影を踏みあったものの反応はなし。そもそも踏み付ければ炙り出せるかと言われると確証はないので、今はヴィランの個性について調べてくれている警察の報告を待つ他なかった。 しかし、そんな悠長に待っていられるほど俺達の担任は黙っていない。なにせ、周囲の誰しもが認める最高のヒーローであり、且つ、知らない個性を知らずに何もせずにはいられない生粋の個性オタクの彼は既に熟考に熟考を重ね、誰にも止められない世界へと今日も旅立ってしまっている。 「僕が思うに……黒色く、ペンタブラックやツクヨミ同様、明るすぎたり強い光の中では行動が制限されるはずなんだ。溶け込める場所が影に限定されている且つ、人の影に潜んでいるのであれば影そのものが薄くなる明かりのついた部屋、もしくはかっ、大・爆・殺・神ダイナマイトのような爆破系の個性で瞬間的に強い光を当てれば必ず炙り出せるはず。そして、ヴィランが今も脱出を優先して行動しているとなると、何もしなくても外へ通じることのできる人の影、下校時間が近付いている生徒の影に潜んでいる可能性が高い。でも、下手げに刺激するとその生徒が人質にされるかも知れないから、闇雲に探し当てるのではなく、特定の人物の影へ誘い込むような形で追い詰めていくのが最善だと考えますが相澤先生はどう思いますか!?」 「長いし分かりにくい、実に不合理。簡潔に纏めろ」 「僕の影に誘い込んでそのまま校外へと連れ出したあとに確保しますので、背後で見張りと演技の協力をお願いします!」 割と真面目な話のはずなのに顔がにこにこしすぎてて相澤先生がとてつもなく大きな溜息を吐いていた。相変わらず緑谷兄ちゃんの宜しくない癖だなあと思いました。 *** 雄英にヴィランが侵入したと緊急通信が入って数分後、自分以外にも偶然近くにいたヒーローが数名校門の前に集まっていた。ヴィランの詳細と校内で職務に当たっていたデクが対応していると聞いていたので、特段心配する必要もないかと思いつつも、互いに多忙を極めていて禄に会っていなかったことに気付き、顔を見るがてら手を貸してやるかと足を運んだところだった。 ヴィランが持つ個性としてはそこまで危険性はないといえど、武器を所持している可能性もあり校外に出た途端に暴れ回ることも視野に入れなければならない。こうもヒーローが複数人集まれば余計に抵抗が激しくなることもある。いつだって油断はしてはならない、その隙をついて来るのがヴィランなのだから。 そう思いつつも暇を持て余し頭をがしがしと掻きながら立ち尽くしていると、ふと閉じられていた雄英バリアがゆっくりと開いた先、そこにはいつものリュックサックを背負いどこか楽しげな表情を浮かべたスーツ姿のデク先生が真っ直ぐこちらに向かって軽い足取りで歩いている。するとこちらの存在に気付いたのか、慌てて駆け寄ってくるその姿に思わず顔が綻んだ。 「あれ、かっちゃんだ」 「何でてめぇだよ」 「ちょうどいいや、いつものお願い」 「少しは人の話聞けや、クソがッ!」 一ヶ月ぶりの再会だというのに感動のかの字もない。もとよりそんなものは期待はしていないが、言葉の通り、心からちょうどいいと思われている辺り滅茶苦茶に腹が立つ。それでも仕事中というこもあり出久の思惑も理解はしていたので、仕方なくお望み通り彼の頭ごとどでかい爆破を拵えてやると、弾き出されたかのように影から飛び出たヴィランが最後の抵抗とでも言うように、出久の背後で両腕を後ろ手に掴み、隠し持っていたナイフを首に当てては空へ向かって高らかに叫んだ。 「だ、ダイナマイト! お前確かデクの幼馴染だったなあ、こいつに死なれたくなかったらそこどけや!」 「……本気で言ってんのか、お前……」 デクのことを知っているくせに敢えてデクを人質に取るなんて余程気が動転しているのだろう。あまりに目立つ無駄な行動が目に余り落胆するも、当の人質本人は実際に影から姿を現したヴィランの個性を垣間見て空気を読まずに感動しているし、どこから出したのか分からない例のノートに書き込みを始めているものだから居た堪れない。お前、今の今まで手拘束されてただろうが。 「す、すごい……校舎からここまで結構な距離があったにも関わらず、ここまで気配を消して潜むことが出来るなんてどんな個性伸ばしの特訓をしたんですか? 生徒にも似た個性を持つ子がいるので是非アドバイスを……」 「こら、ふざけんな! 勝手なことするとお前の首掻っ切……ぐおおっ!」 「は、肌も普通の人と違う! このざらついた感じ、でも体を溶かすように影の中へ沈ませていましたよね。やはり個性に合った体質を元々持っているからこその柔軟性なのか、いやでもそれにしたって不思議な現象だ……ルミリオンのように透明化するような感覚なのかな、うーん興味深い。すみません、僕署まで付いていってもいいかな!? 今後の指導方法にも関わってくるし、あ、でもとにかくここだと危険だから場所を移しましょう! かっちゃんごめん、警察の方連れてくるからそれまで拘束お願い」 「いだだだ、待って、腕痛い! こいつ無個性とか嘘だろ!」 「無個性以前にゴリラだからな、そいつ。諦めろ」 人質という自覚さえない人質は力任せにヴィランの拘束を解くどころか肌質を確認すべく腕周りを触りまくった(流石に無自覚はキショい)上、じろじろと舐め回すように体全体を眺めたあと、多少正気に戻ったのか混乱しているヴィランを俺に押し付けて何故か同行する気満々で警察を呼びに行った幼馴染の背を眺めては最早文句を言う気力もなくがっくりと項垂れたヴィランの肩をぽんと叩いたのだった。 「取り調べよりもあいつの詰め寄りの方が怖いよ……」 「署まで付いていくっつってたな。頑張れよ、応援しとる」 「お願いします、見捨てないでください!」(2026.02.20)
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