楽しすぎて堪らない話
緑色の閃光が眩しい青空の中で流星の如く雲を裂き光と共に消える。威圧のような追い風を物ともせず駆ける姿はいつだって目に焼き付いて頭から離れない。 輸送用トラックの中でダツゴクを発見したとの通信を受信してすぐ、その光を早く追いかけたくて体が疼いて仕方なかった。手のひらをぐりぐりと揉みほぐし、リアドアがゆっくりと開いて眩しいほどの日が差し込むと同時に、鬱憤を吐き出すつもりで溜めていた汗を一気に破裂させて外へと飛び出した。たった数秒間、そんな短い時間の差でも閃光は随分と先へと流れてしまっている。けれども焦り一つ感じることはなく、等間隔で爆発音を靡かせながらその後を猛スピードで追う。受ける風が熱を冷まし、気持ちの良いくらいに撫でる疾走感で堪らず鼓動が踊った。 「チンタラ飛んでんじゃねえぞ、ノロマァ!」 崩れたビル群、信号や電柱の入り組んだ細い道路の中を掻い潜るように右手と左手の爆破で勢いを調整し、道路すれすれの低空飛行のまま前を爆走するダンプカーを追って、その荷台に乗った数人のヴィランがかまいたちのようなものを無数に投げ付けてきた。道路を挟んだ向こう側には並走して出久が浮遊し、背中から這う黒鞭で彼方此方の瓦礫を掴んでは遠心力でスピードを増していく。 「かっちゃん!」 飛び交う刃を回避しながら一瞬ばちりと合った視線、あだ名を呼ばれ鮮やかな緑色の瞳が自身を写した直後、互いに分かれた道を其々に迷いなく突き進んでいく。 ダンプカーの出せる速度にも限界はある。その上荷台には数人のヴィランとその他に一般市民から盗んだであろう物資が多く積まれ、今以上のスピードは恐らく出せない。派手に爆破を繰り返しながら、沸いた灰色の煙で辺りを浸し、視界に影響のない町外れへの道へ追い込んでゆく。海が見えた。太陽の光できらきらと反射し、眩しい程に波打つ景色はいつだって美しい。その波を掻き分けるように猛スピードで飛んでいる出久は、その塩辛い飛沫に塗れ稲妻のように中を駆けるそれに目を奪われて、堪らずにやりと口角を上げる。 「ダセェことしてんなよ、デクァ!」 こくりと頷いた。それだけで十分だった。海上に伸びる大橋を走るダンプカーの周り、道路を抉るように撃ち込んで猛スピードを出していた車体のバランスが崩れ、耳障りの程のブレーキ音が辺りに響き、その間に先へ回り込んだ出久が黒鞭で縛り付けそのまま滑るように動きを止めた。無謀にも慌てて運転席から飛び出してきた一人の顔面へ手のひらを押し付けそのまま爆破した勢いで気を失わせたあと、残りの荷台に乗っていた数人の抵抗を易易と力でねじ伏せ拘束する出久の横でまだ野放しのままの生き残りを思い切り殴っては首根っこを掴み地面へと投げ捨てた。 「検挙数俺三、てめぇは一! よって、俺の勝ちィ!」 「みみっちいなあ」 「その、みみっちいって言うのやめろや」 一年前まではあんなにもぶるぶる震えていたクソナードも、今では随分と遠慮のないふてぶてしい態度を示すようになった。そんな幼馴染を腹立たしくは思うも、心のどこかでそれを受け入れている自分が確かにいてそれがまた苛立たしかった。それでも出久は今日も笑って、力強い声で己に身に付いた確かな力を実感し、それだけで飽き足らずもっと上を目指そうと前だけを向いている。それは自分も同じだった。むかつくほどに目指す先も、憧れたものも、なりたい未来も同じ道にあって走り抜ける度にぶつかっては削り合い高め合っていく。 「でも、やっぱりかっちゃんはすごいや」 「人を褒める暇があんならてめぇを磨け。俺はいつだって前にしか立たねえからな」 「分かってるよ。僕が何年君の背中を追いかけてると思ってるの」 第三者目線から見ても出久は、ワンフォーオールもその先代継承者達が所有していた個性も順調に使いこなせるようになってきている。初めて黒鞭を発現した頃とは段違いに成長しているのは目に見えて分かった。それでもこの幼馴染はいつまでも追いかけている側だとばかり思い込んでいて、そんなんじゃいつまでたっても永遠の二番手だろうが、と文句を言いそうになってやっぱりやめた。 「……うん、うん。ほんとにごめんね。かなり海側というか……海の上の橋まで来ちゃった。ダツゴクは全員拘束済み。とりあえずかっちゃんもいるし、大丈夫。来るまで待機してるね」 「何分だ」 「あと、五分くらいで着くと思うって耳郎さんが」 「おっせえ、牛以下」 図ったようなタイミングで受電した通信と会話を続けつつ、車移動なんだから仕方ないじゃないか、などとカスのような声で喚く出久を足蹴にしていると、こちらも同グループから通信が入り渋々応答する。その第一声に響いたのは、焦燥した切島の馬鹿デカい声で。 「やっと繋がった! おめぇ今どこいんだ!」 「遅えんだよ、クソカス。出久んとこの車がこっち向かっとるからてめぇらは来んでいい、他の地区回りながらそのまま拠点帰れや」 「はぁ? んじゃあ、爆豪はどうすんだよ」 姿は見えずとも眉をハの字にして精々困り果てているであろう切島を容易く想像しながら、その間にも見慣れた搬送用トラックが此方へと向かっている姿を確認し、それに向かって手を振っている出久の腕を背後から掴んで、爆破で一気にそのまま空へと上昇していく。 「ちょ、っと……かっちゃん! まだ収容が終わってな……」 「休んでる暇なんてねェんだよ! さっさと次行くぞ!」 「ああもう、またみんなに怒られても僕知らないからね!」 そんなこと知ったことではない。世界が混沌に陥っていようが、復興が間に合わないほどに町が崩壊していようが、はたまたそこら中にダツゴクたちが蔓延っていたとしても今はただ、この空の下で全力をぶつけ合える存在が隣にいることが愉快で堪らなかった。緑の閃光と朱色の光耀が混じり合い、掴みあげていた体は気付けば隣に並んで風を受けている。生意気なんだよ、そう吐き捨てながらぐるりと旋回し地に背を向けた直後、太陽を背にむかつくほどの笑顔を浮かべた出久に顔を寄せ、影の中で隠すようにそっと口付けた。(2026.01.28)
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