真冬の夜に冷えた指先をあたため合う話
(ヨリ×マゴ) 「うげえ」 財布とエコバックと携帯電話だけを突っ込んだショルダーバッグを肩に掛け、店の裏口、台所のすぐ側にあるお勝手を勢い良く開け放った直後に吹き付ける冷たい風は、先程まで確かにあった買い物への意欲を一気にすり減らしていく。大した買い物ではない。今夜は肉じゃがにしようと思っていたから、たまたま切れていた醤油やみりんなどの調味料をさっと行ってさっと買って帰ってこようと思っていただけだ。それ故に上着も着ずにクラマナスウェット一枚で飛び出したものだから堪らずぶるりと体を震わせた。靴下が苦手なので当然下半身も夏仕様である。最近は夜の寒さが厳しくなってきたため、そろそろ衣替えしなければいけないと心の中では分かっていたけれど、さすがに十二月ともなれば従来の格好では外出は躊躇われる。ふと下を向けば、膝から足にかけてしっかりさぶいぼだらけになっている始末だ。 「お前よお」 「わか、分かってる。分かってんだ、ほんとに」 「面倒くさがりも、ここまでくるとアホだなマジで」 馬鹿にされる前に大人しくもう少し厚着してこよう、そう思って踵を返せば既に目の前には大きな溜息を吐いて呆れている幼馴染が突っ立っていて、既にしっかりと暖かそうなニットやジーンズを履いた装いをしており、まだまだ夏を忘れられないと言わんばかりの未練たらたら薄着おじさんと並ぶと住んでいる国が違うのだろうか、と思うくらいには自身の季節感のおかしさに苦笑した。 「ほれ、もう日も暮れてっからこれちゃんと着ろ」 「あ、ありがと。あの、えと……」 「ただでさえすぐ体調崩すくせにンなアホみたいな格好で行くな」 投げつけられる形で受け取った黒のダウンジャケットに腕を通し、アローズサンダルアオキを脱ぎ捨て渋々靴下を履きホワイトアローズへ履き替える。その間にホタプラントパーカーとマフラーを首に巻き、ジーンズのポケットに財布を突っ込んだヨリが隣で靴紐を結んだままのシャコナックルに足を突っ込んでいる。 「お?」 「俺も行く。少しくらい店閉めててもどうにかなんだろ」 いつの間にか二人で買い物に行くことになっていたらしく、理解が追いつく前に腕を取られて引きずられているかのように外へと連行された。すっかり日の短くなった冬の一日は番台でぼけっと来客の対応をしている間に外は黒く塗れ冷たい空気が充満する。雪という存在は見たことはないけれど、この星も大昔には真っ白な銀世界に変わる日もあったと聞く。雪かきなんてごめんなのでそんなもの降らなくてもいいかなと思いつつ、一面真っ白な景色を始めた眺めた時、皆はどんな感情を持ち合わせるのだろうとそれだけは何も考えていない者なりになんとなく気になったりはした。 真っ暗な夜道、先なんて見通せないほど小さく照らす街灯、その先に見える、小さなスーパーマーケットの蛍光灯の光が優しく主張しているのを見つけて、もう少しだねと隣りを見ると、ああと答えた彼の口元から真っ白な吐息がふわふわと浮かんだのが見えた。 「さむそ」 「お前に言われたかねーわ」 「あっ、俺も出てる。はあっ〜……ほら」 そっと口を開いて、中で温まった息がふわふわと黒に浮かぶ。弱い風に流れてすぐに消えてしまったそれを目で追って、溜息を吐きながら冬だなあと呟いた。そのついでに手を口にかざして、ふうと息を掛ける。氷がじわじわと溶けていくように熱に包まれ、そのまますりすりと擦り合わせているとその手はすぐさま一回り太い褐色の手に連れさらわれてしまった。 「あっ……」 「いいだろ、誰もいねえし」 「う、ん……」 「お前の手、冷てえ」 「……ふへへ。子供体温」 「うっせ」 ホタプラントパーカーのポケットの中まで引き込まれたがちがちの手が次第なふにゃりと糸を解いたように解けていく。よく見たら、小さな使い捨てカイロがその中に入っていてまるでこの中は小さな炬燵の中だ。ずるいな、と抗議をしたくなったけれど、それ以上に優しく目を細めたヨリの微笑みから目が離せなくなっていて、仕方なく静かにその恩恵を授かることにした。(2025.12.02)
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