美味しいものを食べに行く話

(マゴ+ヨリ+おにいさん+相方くん)  珍しくメッセージアプリの通知が届いてすぐ、床に寝転んで暇そうに雑誌を読みふけている幼馴染に声を掛けた。仕方ねえなと言いつつも、どこか嬉しそうだった彼の表情を思い出す度に今でもつられて笑ってしまいそうになる。以前から話は伺っていたもののまだ遊びに行ったことはなく、途中のコンビニで差し入れを買いながら、送られてきた住所までの道をお散歩の気分でのんびり進んでいく。自分の説明が不足していたのか、隣りの幼馴染は到着まで何処に向かっていたのか知らずに付いてきていたらしく、どうしてよりによって、と文句を言い出した直後にそれもしかしておやじギャグなの、と素で聞いたら見事に頭をスパーンと叩かれて思わず笑ってしまった。 「ピンポ〜ン」 「口で言うな、口で」 「大丈夫、多分気付いてくれる……ほら」  自分たちが住むアパートよりも規模の大きな建屋の一室、元々は彼らと一軒家に住んでいたチビッ子たち(随分大きくなったろうなあ)がバンカラ地方で独り暮らしをすると決めてからすぐ後を追うように部屋を借りたと言っていたものだから非常に微笑ましいなと思った。でももし、同じようにリンが独り暮らしをすると言ったら同じことをしようと思ったかも知れない辺り誰かのことをどうこう言える立場はないなと苦笑した。  慌てた様子でどたばたと足音を立てながら玄関の扉を開けてくれたのはヒナタくんだった。お久しぶりです、と笑顔を浮かべた彼とは一週間ほど前に一度、本当に偶然バンカラ街のタワー内にあるロビーで再会していて、交流の場となっていた銭湯にはお互いに生活上顔を出せずにいたため本当に驚いたものだ。その後、せっかくだからと招待してくれたのはつい先日で、誰かの住居に遊びに行くだなんて滅多にないことだから幾分か恥ずかしくも舞い上がってしまった。 「これ、足しになればと思って」 「えっ、あ……わざわざすみません! そういえばちょうど切らしてたかも」 「それは良かった。好みのやつだといいんだけど」  小さなビニール袋に入れられた酒缶とおつまみを渡して、恐る恐るクツを脱いではリビングに繋がる廊下を進み、自分が住んでいる部屋とは何処か違う雰囲気と匂いに思わずきょろきょろと辺りを見渡してしまう。壁の色は白かあとか、こっちは浴室かなとか、お掃除マメそうなのってマサキくんだよなとか、スリッパちゃんと用意してあるなんて偉いなあとか、普段生活してる中では感じ得ないことに目を奪われていく。  リビングと繋がっているキッチンではマサキくんがおつまみを作ってくれているようで香ばしい匂いが食欲をそそる。やあ、と一言声を掛けると、ああとだけ返ってくる低い声に不思議と安心感がわき、照れ臭そうに空いたコップを持ってきてくれたヒナタくんがどうぞ座ってと連れられたソファに二人で腰を下ろす。 「物少ないね、なんか大人っぽいな〜」 「こっち来た時に必要最低限のものしか持ってこなかったんですよね」 「掃除しやすくていい。うちはお前のオタクグッズが多すぎんだよ」 「だってプレミアついたカードは額入れて飾りたくなるだろ、最近アクスタとかも出たから一緒にしたいし」  ぷしゅり、とビール缶の栓を抜いて、コップに注いだそれを一気に流し込みながらそう文句言うヨリは、ナワバトラーカードのおまけシールを集めるためにウエハースの処理を押し付けられていたこともあり、度を超えた収集癖にはあまり良いイメージがないようで、こういった話題が上がるとちょいちょい痛いところを突いてくる節がある(勿論言い返せた試しはない)。確かに物が少ない生活にも憧れるけど、好きなものに囲まれる生活も自分は好きだったので、写真や旅行先のお土産をいつも視界に入る場所へ飾るのが好きだった。 「そういえば、番台にも何か置いてましたよね」 「うん。今は二人にもらったアレ、置いてるよ。魔除けになるらしくて」 「本当ですか、なんか嬉しいなあ」 「店主がとんだトラブルメーカーだかんな、プラマイゼロだろ」 「あー、そういう失礼なこと言っちゃうんだあ」  にししと口角を上げながら笑うヨリに堪らず肘打ちをする。そんな談笑をしているうちに料理が盛られた皿を持ってキッチンからやってきたマサキくんが、小さなテーブルに出来たてのそれを並べ、向かい合うように座布団へ二人が座るとついに今夜の宴が始まった。先程までフライパンの上で転がされていたそれ、焼いた手羽先のジューシーな香りに自然と声を上げてしまう。準じて並べられたもろきゅうと手作りっぽい燻製卵にチーズの生ハム巻、などなど実におしゃれな料理が並んで感嘆した。せっかくだからと買ってきたサラミや鮭とばを律儀に更に盛ってくれているのもこだわりというか、マサキくんの丁寧でマメな性格が表れているなと思った。ごめんなさい、うちでは袋を開けたらティッシュに乗せてそのまま食べています。 「さすが居酒屋勤務すぎる」 「……まあ、やることはいつもと同じだからな」 「まあまあ美味い、まあまあ」 「あ、ちょっと! 手羽一人で食べないでよっ」  ふーん、と不満げに食卓を眺めていたヨリが一番満足気に食べている隣りで、ビールを注いだばかりのコップを片手で持ちながらごほんとわざと咳き込み視線を集めては、ゆっくりと泡立つそれを即座に頭上へ持ち上げる。 「そいでは、なんかもう始まっちゃってますが、改めて二人の新たな門出を祝って……」 「何? こいつら結婚した?」 「いやいやいやいや!」 「細かいことは気にせず乾杯〜!」  掛け声と共に四つのコップがかちんと音を立てて震える。喉に流し込んだ痺れるような炭酸の気持ち良さ、各自豪快に漏らしたプハーにどっと湧いた笑い声に胸の奥がほっこりと温まっていった。

(2025.11.09)

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