他人の振りをして遊んでみる話
(ヨリ×マゴ) ちょっと悪ふざけをしたくなっただけだった。そういうものに乗ってくれるような彼ではないとは分かっていたけれど、つい好奇心で。しかし案外、話を合わせてくれる辺り彼なりの優しさなのだなあと実感するとともに、なんだかいつもの彼らしくなくて思わず笑ってしまった。 「どうした。早く釣り銭を寄越せ」 「お前な〜、マゴさんだって忙しいんだからそう催促するなよっ」 「知らん、こっちは神様お客様だぞ」 「…………ぶは、あはははっ。マサキくんはそんなこと言わない」 両腕を組みながら彼なりの仏頂面で、何故かいつもは頭に掛けているオクタグラスを顔に下ろし、少々悪そうな装いで小さなクレームを入れてくるヨリがまた妙な面白さを引き立てている。 「アンタも店を営むインクリングの一人なら、常連の客を大切にするんだな」 「こらっ、そういう事は言うもんじゃないぞ!」 「…………」 「あ、今の顔ちょっと似てた」 時々店に遊びに来てくれる友人のマサキくんとヨリは、周りからすれば犬猿の仲のように見えるかも知れないけれど、実を言うと案外気の合う二人でもある。ここ数年、マサキくんのことが気に食わないヨリが毎度突っかかっているように見えていたものの、よくよく話してみると楽しそうに笑顔を浮かべていたり、それなりに会話が盛り上がっている時もあるので何だかんだ文句は言うけれど、彼なりの気の許し方なのだろうなと思った。 「アイツ堅物だし変なとこ真面目だしな」 「誰が堅物で何が何だって?」 「イダダダ! こら、やめろ!」 「やあ、二人とも。いらっしゃい」 噂ならぬモノマネしてたらなんとやら。ヨリの背後にあった店の引き戸が一気に開いたかと思えば、彼の頭の上にひょっこりと顔を出し、重力に逆らうようにふんわりと立ったヨリの髪をぽよぽよと大きな手のひらで叩いている彼がマサキくんである。そして、その後ろでまたやってる、とでも言いた気に眉を八の字にして困った顔をしているのはもう一人の友人、ヒナタくんだった。 「似てたでしょ?」 「どの辺が」 「なんか、こう……ムスッとしてるとこ」 「……帰るか」 「大人気ないな〜」 「うそうそ、ごめん! 飲み物サービスするから行かないでー!」 少し拗ねたように背を向けて外へ出ようとするマサキくんがなんだか可愛く見えて、慌てて声を掛けた直後、どうやら同じ気持ちだったらしいヒナタくんと目が合った瞬間、我慢できずに腹を抱えてしまったのだった。(2025.08.26)
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