揚げ立てが食べたかった話

(ヨリ×マゴ) ヨリマゴさんは『摘み食い』をお題にして140字SSを書いて下さい。 https://shindanmaker.com/690126  隣りの台所からじわじわと居間へ流れてくるいい匂いが鼻を掠めて沈んでいた意識がゆっくりと覚醒する。大きな欠伸を零しながらまだ霞む瞳を擦りつつ、部屋を区切る襖をそっと開いた先は意外にも無人で、きょろきょろと辺りを見渡しても想像していた細い背中は見つからなかった。 「おっ……とと」  台所にあるガス台には鍋が一つ、そして流しの側に作りたてであろう数種のおかずが盛り付けられた小皿と本日の主食であろうコロッケが山を作り、如何にも揚げ立てと主張する真っ白な湯気と香ばしい匂いにごくりと息を呑む。 「ちょっとだけぇ」  今日は朝からハイカラスクエアへと出向き、いつもより早い時間に店へと帰ってはそのまま一眠りしてしまい現在に至る為、ちょうど腹が空き始めたところにこの誘うような匂いに包まれてしまっては、手が出てしまうのは致し方ない事だと一人心の中で自身に言い聞かせ、一番上に乗った大きなコロッケを掴んではさくりと気持ちの良い音を響かせながら一口含んでみる。 「んっ……うぅううっま! いだいっ」 「うまいじゃないよ、何勝手に食ってんの」  どうやらお手洗いに行っていたのか、濡れた手をエプロンで拭きながら台所へと戻ってきた幼馴染に後ろから頭を叩かれ、取り上げられた残りのコロッケは悲しいかな、彼の口の中へとすっかり吸い込まれていったものだから実に名残惜しい。しかし、未だ残るふわふわのじゃがいもの食感と香り、柔らかくもサクサクのきつね色の衣が腹も心も満たし始め、無意識にも蕩けた表情を浮かべていたらしい自分の顔を眺めていた幼馴染はくすくすと笑みを溢しながらそっと呟いたのだった。 「ちょっと早いけど、ご飯にしちゃおっか」 「お、おう! ソース、ソース持ってくな!」 「はいはい」

(2018.11.09)

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