かわいい嫉妬の話
(相方くん×おにいさん) 「そんじゃ、また後でな」 「ああ」 家を出るタイミングは同じだったけれど、今日はやりたいことがそれぞれあって、タワー前で解散してからはアパートへ帰るまではずっと一人だった。昨夜、バンカラマッチのスケジュールを確認してきたので恐らく参加したかったルールとステージがあったようで、それならば付き合ってやりますかとその時は思っていたけれど、たまたま今日はフレンドにギアの組み合わせを一緒に考えて欲しいと頼まれていたのを思い出し、それならば仕方がないと別行動をすることに決めた。 近くのカフェで待ち合わせていたフレンドとああだこうだとギアのカタログを眺めつつ、店内にもある液晶画面で試合真っ最中のバンカラマッチの実況をちらちらと見ていると、先程別れたばかりの顔が映って思わずにやけそうになってどうにか堪える。しっかり手入れの行き届いたストリンガーを構え、確保したエリアをしっかりと守りつつ、敵陣へと攻め入る仲間をサポートする様は付き合いが長い自分から見てもとても丁寧な動きをしていて、周りを見つつ相手チームの侵入を許さない辺り尊敬の念を禁じ得ない。 「もしかして、知り合い?」 「あ、えと、ごめん。ちょっと見てただけ」 「あのサファリハット被ってるちょっといかついボーイくんさあ、めっちゃ上手いよねえ。同じ弓使いとして尊敬するよう」 「お前は撃ち方が雑すぎんだよ。距離詰められてすぐリスポーンするじゃん」 「うお、まじ失礼〜。アタシやる時はやるガールだし! ねっ、ヒナタくん」 「あはは。確かに俺、こないだちゃんと助けてもらったしね。でもまあ、回復力アップかメイン効率は積んだ方が余裕が出ていいんじゃない?」 「ブフッ、遠回しにディスられてやんの」 向かいに座りフラペチーノを飲みながらプンスカ怒っているガールはその隣で苦笑しているボーイの恋人で、たまたま少し前にナワバリバトルでチームが一緒になったカップルだった。年は近いがバトルはまだ始めて間もないらしく、二人のサポートをしつつ数戦バトルをした後、ロビーで突然フレンド申請を求められたのが切っ掛けで、今日も練習に励んでいる二人に使うブキに合うギア選びを参考程度に教えて欲しいと頼まれていた。 「ねー、もしかして知り合い? 二人が先生だったらアタシもXマッチ夢じゃないかなあ?」 「お前な……図々しいにもほどがあんだろが。ごめんな、ヒナタくん。こいつほんと、す〜ぐバトル上手いやつ目敏く見つけては声掛けんだよ」 ヒナタくんに失礼だろ、と彼女に優しくゲンコツを食らわせて、その仲睦まじい関係に思わず笑みを零した。 別にサキを二人に紹介するのが嫌なわけではない。お互いに知り合いを紹介してそのまま共通のフレンドになることも今までにあったし、それこそバトルをしたことのない相手に色々なブキ、ルールによる立ち回りなどを試すことは新鮮で楽しいと思うし、それでいて同じチームになるのも相手チームとして戦うのもいい経験になる、が。 (……なんか俺って心狭いのかなあ) 彼女には彼氏がいる。浮気するような性格でもないし、そもそもサキはガールに対してあまりそういった感情を持ち合わせている様子はない。彼の愛情を疑ってはいないし、不安になるほど触れ合いが少ない訳でもないのだけれど。 「あー……えと、そこまでじゃなくて。その、知り合いの知り合い? みたいな感じだから、ごめん」 「なんだあ、そうなんだ。残念〜」 「彼氏の前で他のボーイを紹介してもらおうとするんじゃないよ、全く」 適当に誤魔化してしまったけれど、どうにか疑われずに済んで心の中で一人ほっとため息をつく。同時にこっそりごめんと謝った。罪悪感はあれど自分の気持ちに嘘はつけない。以前の自分であればこんな気持ちになることなんてなかったのにな、と呆れながらも、止まっていた手で再びカタログのページをそっと捲った。 *** 「ということがありまして」 「よく分からんが分かった」 「察しが良くて助かります……」 帰宅後、よくよく考えてみたらお互いバトルに嗜んでいるのだからいつか鉢合わせするのでは、と今更になって危機感を覚え、あまりの恥ずかしさで顔が燃えそうになったけれど大人しく全ての事情をサキに話した。もし会ったら最近フレンドになったことにして欲しい、フレンドを申し込まれても枠がいっぱいだから無理だと断って欲しい、などなどエトセトラ。包み隠さず話したものだから、聞いた途端に俺がガールに好意を抱かれてることに嫉妬してるのか、とストレートに聞かれた。そこで顔は完全に燃えた。 「かわいいヤツ」 「お、おおおおお俺にだって、独占欲っていうもんがあってだなっ」 「そのガール、恋人がいるなら余計に可能性ないだろ」 「そういう、問題じゃ、なくてっ!」 「まあ、話を合わせてやらんでもないが……ボロが出ても保証はしない。その辺は勝手に上手くやれ」 「そんな殺生な……」 「そもそもそんな嘘吐かなきゃ良かっただけだろ。自業自得だ」 勇気をだして相談したのにこの仕打ちである。もう少し親身になって話を聞いて欲しい。いや、馬鹿なことしたのは自分に間違いはないのだけど。 「……だって、なんか、その……嫌だったんだもん」 「今まで散々気持ちは伝えてきたつもりだったんだがな」 「そ! それは、知ってる。ちゃんと知ってる、分かってるよ。あの子、結構フレンドリーなタイプだから誰に対しても距離近くて。オマエが取られちゃうとか、そんな風には思ってないけど、でも、なんか、こう……」 自分以外に触られたり親密そうにされたら嫌だ、までは恥ずかしすぎてさすがに声には出せなかった。それでもサキはその先をしっかり理解してくれていて、小さく溜息を吐きながらそっと腕を掴んだ。そのまま両手を背に回すと、呆然としているうちに彼にぎゅっと抱き締められていて。 「何!?」 「自覚しろ、少しは」 「だから何が!?」 「まあ、たまにはそうやって俺のせいで不貞腐れてるのもいいもんだがな」 子供みたいに駄々を捏ねて呆れられているかも知れないと思ったのに、見上げた先にはさも楽しそうににやりと口角を上げている彼がいて、その意外な表情に再び頬がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。 「……反則だぁ……」 「俺は何もしていないが」 「もういい、もういい。やめだ、今度正直に言います!」 嫉妬をする度にそんな顔をされるなんて堪ったものではない。そんな気持ちを知ってか知らずか、自棄糞気味に開き直った自分を見下ろして声を上げて笑う彼を眺めながら、本日何度目か分からない重たい溜め息をどろどろと垂れ流すように吐き捨てたのだった。(2026.05.04)
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