いつものことの話
(相方くん×おにいさん) ハイカラスクエアで髪型に個性を付けることが流行になっていた頃からあまり関心はなかった。それはきっと、相方もそうだったと思う。でもそれとこれとは話は別で、ある日を境に時より違う髪型で日々を過ごすようになった彼を見る度に格好いいし似合うじゃん、と軽い気持ちで褒めてみたら心なしか嬉しそうに、というか少し照れ臭かったらしくて上手いことを返せずにまごついている彼はなんだかとても可愛らしく見えた。 「頼む」 その依頼はあまりにも突然で、握っていたゲーム機を落としそうになりながら声が聞こえた方を向くと、リビングの食卓テーブルに備え付けられている椅子に彼は腰かけていた。それでいて何を頼まれたのかというと、いつも使っている髪留めを渡されたので要するにそういうことである。 ドレッドという髪型に関する知識はない。どういう技術でこんなに髪を細かく分けて編み込んだ形に出来るのだろう、と美容師に対して敬意の念を抱きながら、肩に垂れるそれをそっと手で纏めてみる。 「へえ……なんか、すごい」 「何が」 「なんかが」 艶やかさとそれなりの弾力さがあり、それでいてするりと指と指の間へ流れ落ちる橙色の髪はとても触り心地が良かった。何度も手櫛を通すたびにその気持ち良さが変に癖になる。 ふと気になって編み込まれている部分を指先で突いてみた。見た目以上にしっかりと毛束が作られていて、そう簡単には崩れそうにはない。これシャンプーする時どうしてるんだろう、と素朴な疑問を浮かべていると振り向いた呆れ顔が早くしろと訴えてくるものだから、渋々ながらばらついた髪を一つに纏めていく。 「上? 下?」 「下」 「いつもんとこ?」 「ああ」 ドレッド側に髪を持っていかれているかと思いきや、こうして纏めてみると想像していたよりも毛束が多い。そのまま手首に付けていた髪留めを片手で取り出し、ぐるぐると解けないようにしっかりと巻き付ける。ボリュームはあるけれど、以前と比べるとコンパクトになったような気がした。 「ミニミニおさげ」 「何か言ったか」 「いえ、何も」 そんなぶっきらぼうな言葉も出会ったばかりの頃はよくびくついていたけれど、今では彼らしい素直じゃない反応で寧ろかわいいよなあと思う(絶対に本人には言えないけれど)。 人は見かけによらない、というのは相方にぴったりな言葉で、見た通りのガタイの良さと睨みを利かせた(睨んでいるわけではない)あの細く真っ赤な瞳が少々周囲を怖がらせる原因となっているのだが、残念ながら本人としては怖がらせているという自覚はない。話してみると案外相手の気持ちを考えながら話すし、たまに年相応な笑い方をする時もあるが、大抵そんな瞬間であっても彼をあまり知らない者は驚いてよく肩を震わせている。 そんな街中での様子を散々隣りで見てきたものだから、何度か口を挟もうかと考えたこともあったがどうやらそれは不要だったようで、周囲の視線など一つも気にしていない彼を見てこりゃあ慣れていらっしゃるな、と黙って口をつぐむことにしていた。だからといって勿論無感情というわけでもなく、あれだけ鉄仮面を貫いてた矢先に突然稀に見ない表情を浮かべる時もあるのだ。 (例えば……) しっかりと結んだ髪を背へ流し、背後からそっと手のひらで撫でるように頬に触れる。う、と変な声が聞こえた気はするが気にしない。その次に耳。ピアスの付いていない右耳を指先で突いてみた。絶妙に柔らかい。 「……おい」 「ふっ、くく……」 「人の顔を見て笑うな」 「いや、だって……いつになく、変な顔してんだもん」 眉間に皺を寄せた顔を振り向かせ、今にも吹き出しそうな自分をぎろりと睨む。もう怖くなんてなかった。何せ今の彼は怒っているのではなく。 「そう照れるなって。結構、いい顔してるんだからさ」 「全然嬉しくない」 「そう言うとは思った」 にやりと口角を上げれば軽く肘打ちをかましてきた相方に苦笑をもらしながら、ほんのり染まっていたその頬を両手でぶにゅりと挟んでやった。(2022.12.08)
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