早い者勝ちの話

(おにいさんと相方くんとチビガールとチビボーイ)  ソーシャルゲームのイベント周回をプレイしていた最中、いつの間にか知らないうちに年を越していた、とは流石に出来立ての年越しそばを目の前にしては言えなかった。ふと顔を上げるとテレビの前ではしゃぐチビッ子(恐らく新年を迎えた瞬間に二人ソファーの上で飛び上がったらしい)、やれやれと肩を落としながら見慣れたエプロン姿で四人分の蕎麦の丼を盆に乗せて運ぶ相方は何処か満更でもないような表情を浮かべている。 「間に合わなかったか」 「まあ、いいんじゃないの。諸説あるみたいだし」 「……海老が、な。もっと早い時間に揚げ始めるべきだった」  どうやら予定通りに事が進まなかったらしい彼の悔やむ姿に苦笑をしつつ、それはともあれ優先すべきは真っ白な湯気が立ち上る相方特製の天ぷらそばを食す事である。存分にカウントダウンを楽しんだらしいチビッ子達もその食欲をそそるそばつゆの匂いにつられてかテーブルへとすぐさま集まり、洗い物まで全て片付いたらしい相方も向かいに腰を下ろした。 「食べていい!?」 「早く食わないと伸びるぞ」 「よーっし、いただきィ!」  その瞬間、まるでゴングが打ち鳴らされたかのような勢いで隣りに座っていたチビガールが匠の技で箸を操り熱々であるはずの蕎麦をどんどん掻き込んでいく。そんなに慌てずとも蕎麦はなくならないのに、と悠長に四、五本ずつ啜っていると、向かいから相方が衝撃的な言葉を素知らぬ顔のままぼそりと零したのだった。 「ちなみにおかわりは一人分しかない。海老も確か一本だったか」 「なっ……ん、だって!?」  明かな動揺を隠しきれないまま、ごくりと息を飲み思わず隣りを見遣る。すると、ゆっくり箸を止めたチビガールが視線を絡めとるようにしっかりとこちらを見上げ、にやりと口角を上げながら怪しい笑みを浮かべていた。 「油断大敵、火がボーボーとはこういう時の為に使うのだ!」 「く、くそお! さては知っていたな!? 二人共確信犯か!」 「毎年五食セット買ってるのにいつも察せないオマエが悪い」  それを言われてしまっては元も子もなくなる、と反論したところで二対一である現状に変わりはないので勝ち目は零に近い。唯一救いの手を伸ばしてくれそうなチビボーイは、そばつゆに浸かって柔らかくなった海老天の衣を味わうのに忙しいらしくそれどころではないので、孤軍奮闘、足掻いたところで自身を味方してくれる仲間はいないのだ。 「く、くそう! 見てろよ、ナギ! 今からでも追い付いてやるからな!」 「あー、私もうつゆだけだから。新年早々、幸先悪くて残念だったね、おにいちゃん」 「げっ、嘘だろ!? 海老はいいからせめて蕎麦一本、いや二本程……あ、あぁあっ、あまりにも、無慈悲……」  もしや一年前のあの日、全てを食べ尽くしてしまった事を未だ根に持たれているのだろうか。空っぽになった丼を手に持ち台所へと駆け込んだチビガールは、残り全ての蕎麦と海老天を、二人で半分こだなどという甘い言葉は一切なく、そして躊躇さえもなく自分の丼に沈ませては、呆然としている自身の横で元気良く両手の平をぱちんと顔の前で合わせていた。 「はい、いただきます!」 「遊ぶ子、食べる子、寝る子は育つって言うしな」 「俺もナギやユウみたいにすくすく育ちたいなー」 「なら今すぐ寝てみろ、腹が育つぞ」 「酷い! あんまりだ!」  くつくつと腹を抱えて目の前で静かに笑っている相方、言い争っているうちに一滴残らず全てを食べきって満足そうなチビガール、そしてようやく最初の一杯をしっかりゆっくりと平らげたチビボーイの幸せそうな表情を眺め、やれやれと新年一発目から大きな溜息を吐いては明るい笑い声につられて自身も声を上げた。

(2021.01.04)

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