素直になれなかった話

(相方くん×おにいさん) あいおにさんは『気づけバカ』をお題にして140字SSを書いて下さい。 https://shindanmaker.com/690126  画面上のニュースキャスターが淡々と世界で起きた事柄を早口で話している声だけがリビングで響いている中、ソファに座っていた自身の隣りへとチビっ子一人分程の空間を空けて腰を下ろした相方は特に何を言うこともなく、ジップアップカモのポケットから携帯電話を取り出して、未だ不慣れそうに操作をし終えては小さく溜息を落とした。  顔に疲れが滲むその原因には心当たりがあり、それは四人で暮らし始めてからようやく実感した彼自身の生活の一部となっている、自分が思っていたよりも頻繁に出向いていた知り合いの居酒屋の手伝いが恐らく一因となっている事に間違いはなかった。  それぞれ独り暮らしをしていた時はそれほど気にはしていなかったものの、毎日同じ屋根の下で過ごすようになってからは度々不在を繰り返している彼の状況になかなか慣れず、ましてやチビっ子達がナワバリバトルや友人の家へと遊びに行ってしまうと広い家の中にただひとり、長い時間をぽつんと過ごすのも実に寂しさが強まってゆく訳で。 (今までは一人なんて当たり前だったのになぁ)  大人だというのにすっかり寂しがり屋になってしまった自身に小さく溜息を吐き、それでもその気持ちに嘘をつくような器用さは持ち合わせておらず、気づけば無造作にソファの上に転がされていた相方の手と自分の右手をジップアップカモの袖越しにそっと重ねていた。 「……ヒナタ?」 「ぁ、い、今だけ。今、だけで、いいから」  毎日一緒にいられるのにこんな感情が生まれてしまうのは我儘だという事くらい自分が一番理解している。それでも彼がまた自分の視界から消える時間に浸らなければならないすぐ目の前の未来が到来するまでの今、ざわついた胸の奥がただただ焦燥した気持ちを募らせて少しでもぬくもりを求めようと、意志を反して身勝手な欲を満たす為に伸びてゆくこの手に情けなさを感じてゆっくりと顔を俯かせた。 「そろそろ、行くんだろ。引き止めてごめんな」 「いや、今日は早めに帰ってこれると思う。腹減ったら先に三人でメシは食ってろ」 「あ、うん。分かった……」  壁に掛けられた時計を見上げ、ゆっくりと立ち上がったと同時に離れてゆくぬくもりを思わず追いかけようとして慌ててその手を止めた。 (気付け、ばか……)  心の中で溢した我儘は腹の底の底へと静かに沈み、足を止めることなく玄関へと向かうその背を見送りながら、重い腰を動かせないままにただ一言、行ってらっしゃいと声を掛ける事しか出来なかった。

(2018.11.09)

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