結局水になってしまった話
(相方くん×おにいさん) 「入るぞー」 「あぁ」 大きな欠伸を吐きながら狭い洗い場へと入ってきた相方は、ぐしゃぐしゃと水色の頭を掻きながら誰が見ても間抜け面のその表情を気にする事なく隅に置かれた椅子を引っ張り出しては腰を掛けた。 昨夜自分のアパートへと泊まった彼と済ませる事はきちんと済ませ、まだ裸で寝るには寒い時期にも関わらずソファーベッドに横になり、身を寄せ合っては朝を迎えたところでべたつく体を洗い流そうと普段はあまり使っていない浴槽へとお湯を溜めた。並々いっぱいにお湯が張られた頃、未だ目が覚めないらしい彼を他所に先に入るとだけ伝えて一人冷えた体を温めていた矢先、その数分後に俺も入ると慌てて風呂場へ乗り込んだ彼はどうやら寝ぼけ眼を無理矢理擦ってはようやく目を覚ましたらしいようで。 「中、掻き出してやる」 「え! い、いいっ! 自分でやる、から。その……あんまこっち見るなよな」 「オマエに任せるとせっかく溜めた湯が水になっちまう気もするが」 「あのなぁ。言う程そんなに不器用じゃないから、俺」 頬を膨らませ目を細めながら不機嫌そうにそう零した彼は、こちらに背を向けて一言、そっち向いてろ、と照れ臭そうに俯いては股の間から伸ばした指先をそっと自身の中へと押し入れた。 昨夜はあれほど交わり合ったというのに、自分で自分の指を入れるのは抵抗があるのか、少々苦しそうな声を小さく漏らしながら白濁を掻き出している様子に思わず胸の奥が高まりそうになる。しかしつい先程の風呂に入る直前、体を重ねる事自体久々だったせいか、気付けば最終的に体を重ねているうちに朝を迎えてしまい、体力を使い果たしていたらしい相方からいい加減にしろという怒りの言葉を買うまで抱き潰してしまったものだから、これ以上何かをしようとすれば今度こそ本当に怒らせてしまう事は確実だった。 というロジックを脳内で組み込んだ末に、今は言われた通り黙って待っていた方が無難、という結果に考えは落ち着く、なんて悶々と一人考え込んでいるうちになんとか処理し終えたのか、大きく息を吐きながらシャワーで体を洗い流し、先程とは打って変わって気持ち良さそうにボディーソープを泡立てながらタオルで腕を擦っている様子を眺めていると、高鳴った鼓動の音はゆっくりと小さくなっていった。 「うーっし! 俺も湯船入る」 「先に上がった方がいいか」 「えっ、あ……いや。その、なんというか、えと」 「……分かった。もう少し入ってる」 「あっ、うん……へへ。狭くてごめんな、っと」 浴槽の縁を跨ぎ並々の湯の中へそっと白い足を入れ、向かい合うようにその体を沈ませた途端、湯気立つ滝が勢い良く外へと流れては排水溝へと吸い込まれてゆく。 「ほあぁ~……気持ちいいー」 「この溢れた分の水道代として今夜のおかずは一品減らすからな」 「げっ! か、固い事言うなよ。見かけに寄らずそういうとこ細かいよな、オマエ……」 膝を立て足を折るように座り込み、両腕を組みながら端に背を預けては天井を見上げて大きく息を吐いた相方はなんとも年相応さがなく年寄り臭い。しかし濁音の混じる荒れたその吐息は目の前で聞いている方も不思議と気持ち良さを感じて、そっと苦笑を漏らせばつられるように恥ずかしげに小さく笑っていた。 「なぁ、今日ナワバリ行ってもいいか?」 「なんだ、割と元気だな。オマエが行きたいなら俺も行くが」 「あはは……。いや実はさ、ついさっきなんだけどナギからメールが入ってて。いい天気だからみんなで行こうよって誘われたもんだから」 「いい天気だから、ねぇ」 「ステージもアイツが好きなホッケだし、どうかな。付き合ってくれるか?」 「そうだな……それじゃあ、一つ条件を付けさせろ」 「じょ、条件って何……っ、ぶ、ふふ、ちょ、おま!」 大の男が二人、小さな浴槽の中で向かい合いぶつかる両足を上手く絡ませのんびり浸っている中、チビッ子達の為にも勿論その申し出を断るつもりは毛頭なかったが、無意識にもかくんと頭を傾げ、申し訳なさそうにこちらを見上げておねだりするものだから思わず意地悪をしてしまいたくなってしまったのだから仕方がない。 ずっと湯の中に沈めていた上体をばしゃりと波音を立てながら持ち上げて、その様子を呆然と眺めていた彼の脇腹へとずっぽり両腕を突き刺してはわしゃわしゃと巧みに指を動かしてくすぐってみる。 「ばかこの、どこ触って……あ、っく、ぶふふ、あっはっはっは! ひぃー、まじ、ほんとやめろって!」 「これに一分間耐えたらお望み通り付き合ってやる。もし音を上げたら……ここで、オマエをもう一度……っ!」 「うるさい、ちくしょう! 黙って、ぶふっ、やられてばっかの俺だと思……わ、はっは! もう、無理! くすぐった……ぶははは!」 突然の奇襲に悔しさが生まれたのか、意外にも警戒を怠らせていた足の裏を狙って反撃をしてくる相方の負けず嫌いさには感服してしまう。しかしこちらとて勝負となれば負ける訳にもいかない(後々、誰も勝負だとは一言も言っていない事に気付いて一人陰で笑ってしまった)。ばしゃばしゃと少ない湯船の中で暴れては笑い出すのを繰り返し、最終的には一体何がどうなってこんな事態に陥ったかなど互いに忘れ去ってしまった上、いつになっても待ち合わせ場所に来ないからと結局アパートまで迎えに来てくれたチビッ子達にどやされながらせっせと風呂を出たのだった。(2017.02.22)
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